マギレコ/二次創作小説/里見灯花のAI講座

Last-modified: Mon, 19 Dec 2022 01:21:23 JST (504d)
Top > マギレコ > 二次創作小説 > 里見灯花のAI講座

『里見灯花のAI講座』



「あ、お姉さま……って、ねむーーー!!?」
入ってきた灯花は、驚きの声をあげた。
それも無理からぬ話だろう。
何故なら、僕はお姉さんの膝の上に座っているからだ。

お姉さんがふらりと来たのは、宿題に行き詰ったからだ。
何か考えに詰まったとき、頼る相手が僕たちなのは何事にも代えがたい僕たちの特権と言うべき代物。
「むふっ。逆さまだとちょっと見づらいかな。」
これは必要と言うより、むしろ甘えの類であるかもしれない。
けれど……
「じゃあ、こうしよっか。」
ふわりと抱き上げられると、僕はお姉さんの腕の中。
驚いたことに、いつの間にかお姉さんの膝の上に座っていた。
こんな望外の僥倖、僕に与えられていいのだろうか?
お姉さんの抱きしめる腕が暖かい。
これは……
なかなかどうして……
「ねむちゃん?」
しまったことに、どうも僕は意識を感情の彼方に飛ばしていた。
ようやく僕の目は宿題を捉えた。
『AIと自分の将来について小論文としてまとめなさい』
参考となるプリント数枚があるとはいえ、スマホも扱うのもやっとなお姉さんには、すこしばかり難題なようだ。
ただ、そこにはあまりに重大かつ緊急の問題があった。
口惜しい事に、これは灯花の知る所となった分野。
残念極まりない事に、僕は次の言葉を吐き出した。
「僕もAIに詳しくなくてね。全く知らないわけじゃないけど、お姉さんに説明できるような知識は持ち合わせてないんだ。癪だけど、ここは灯花の出番だね。」

「にゃ~。ずるいにゃ~。」
まるでぬいぐるみのように抱きかかえられた僕を見ると、灯花は甘えたような鳴き声を放った。
「半分は灯花に譲るよ。」
「ぜーんぶ、欲しいんだけどにゃー。」
「そういうことなら、僕は森羅万象を敵に回しても動かないよ。」
「仕方ないにゃー。ねむのためにだきょーしてあげる。今日はお姉さまといっぱい『べんきょー』できるからね。くふふー。」
どうやら、今日の灯花は随分と気前がいい。
お姉さんに頼られたことがよっぽど嬉しいのだろう。
「くふふっ。AIについてだねー。わたくしがかーんぺきな説明をしてあげるよー。」
「よ、よろしくね。」
「灯花、あまり調子に乗って置いてけぼりにしないようにね。」
「にゃにおー!」

「お姉さまは看護師になりたいんだよねー。だったら、AIは身近な話になるかもしれないにゃー」
「それって、どういうこと?」
恐らく、お姉さんは目を丸くして灯花を見つめていることだろう。
ちょっと驚いたのか、僅かに僕を抱きしめる手に力が入った。
確かに、スマホも苦手なお姉さんにはやや想像しがたい話。
「例えば、レントゲンを撮ったとするね。そこに何のびょーきがあるか、それを見つけるために、AIを使うことがあるんだにゃー。」
「ええ?そんなことも出来ちゃうの?」
「そーそー。医療はAIの最前線。これからどんどんと使われていくよー。」
「そうなんだ。じゃあ、私ももっと良く知らないと。」

「AIにもいーっぱい種類があるけど、お姉さまが聞きたいのは教師ありの機械学習のことだから、それだけ話すねー。」
「きかい……がくしゅー?」
「そう、機械がくしゅー。機械が勝手にがくしゅーするんだよー。」
「機械が……お勉強……?」
お姉さんが小首をかしげると、少しだけ上体のバランスが変わって僕も一緒にちょっと傾く。どうやら、いま一つ灯花の言っている事の像がうまくピントを結ばないと見える。
「そうだよー。いーっぱいデータをあげると、たーくさん計算して法則性を見つけてるれるんだにゃー。レントゲンの例も、写真とどこに病気があるのー?ってデータをたーくさんがくしゅーさせると、写真を見せただけでここにあるよーって教えてくれるんだにゃー。」
灯花が指さしたディスプレイには、色々な位置に〇のついた紙がパソコンに吸い込まれる図が踊っている。そして、新たな紙に次々と印を付けていく。
わかりやすいような、わかりにくいような。果たしてお姉さんに合う説明であっただろうか?
「えっと、灯花ちゃん。パソコンが勉強してるって考えればいいのかな?」
「そのとーり。みふゆだって、理解するのに問題と正解がひつよーでしょ?おれとおーんなじ。」
「みふゆさん……」
ついさっき、お姉さんは模試直前のみふゆを目撃してしまっている。艱難辛苦を一身に受けたような姿を思い出してしまったはずだ。いつかお姉さんもあんな苦労をするのだろうか。あんな事態は引き起こさせないように僕が知恵の限りを尽くそう。それが……
「次は仕組みの話をするよー。」

「機械学習はね、関数のパラメータをいじってるだけなんだよ。」
「関数……ぱらめーたー……?」
はたと困ったように首を傾けるお姉さん。
「灯花。その説明だと、誰もついていけないよ。」
「うーん、そうだにゃー。お姉さま。関数はもう習ったよね。」
「うん、二次関数とか……」
「お姉さまの習った二次関数は、xに数字を入れると、yがでるよね。機械学習もね、やりたいことはそれと同じ。データを入れたら答えが出るようにしたいんだにゃー。xとyが分かってたら、お姉さまはどうするかにゃー?」
「えと、代入して、aとbとcをもとめる……?」
「だーいせーかい!データが分かってれば係数がわかるよねー。あとは話はかーんたん。複雑な事をしたいなら、二次関数よりももーっと複雑な式を用意すればいいんだにゃー。その代わり、係数もたーっくさんひつようなんだよ。このたーっくさんの係数をじどーてきに決めるのが機械学習!ルールは色々あるけど、やってることは大体そういうことだよー。」
「じゃあ、とっても複雑だけど、本当は私たちの数学の宿題と同じなのかな?灯花ちゃん。」
「そーゆーこと!ここまでわかったお姉さまにはなでなでしてあげるねー。」
灯花が天高く手を伸ばし、静かにお姉さんの頭に手をやる。
「ふふっ、灯花ちゃんくすぐったい……」

「ねえ灯花。リトルバケーションにもAIを使っていたはずだね。」
「えとっ、ういがたまにやってたゲーム……だったよね?」
「そうだよー。」
「あれはどうやって動いてたんだい?あそこには、本当に人格と言うべき代物が出来上がっていたんじゃないかな?」
「スマホのなかに人が……?」
「本体はこのサーバーだにゃー。」
「計算で……人が……?」
「そのとーり!このサーバーには人間そっくりの人格が住んでるんだよー。人間のまねをするなら、脳をまねすればいいよねー。じゃあ、コンピューターに脳を入れちゃおう!これがニューラルネットワークなんだよー。」
ぽんぽんと、サーバーをなでる灯花。
「コンピューターに……脳……え……」
またお姉さんがきゅっと抱きしめる。
強く抱きしめられる事自体はここ十が、お姉さんは心なしかのけぞるように傾いて、まるで何かから逃げようとしてるかのようだ。
恐ろしい物でも想像したのだろうか。
灯花のサーバーを何か怖い物でも見るかのように見ているのだろう。
「灯花。お姉さんが誤解してるよ。恐ろしくもそこに脳が入ってるって。」
「それはちょっと怖い想像だにゃー……。そうじゃなくて、脳のまね!脳の神経をのまねを計算してるんだよー。」
「そ……そうだよね。お姉ちゃんちょっとびっくりしちゃった……」
「脳の神経細胞が網みたいにつながってるのをまねして、小さな関数をたっくさんつなげるんだよー。最初は、間違った答えを出すけど、どのくらい間違ってるよーって情報を隣の関数からもらって、係数をすこしづつ直していくんだよー。これをたっくさんやると、だんだん正解する確率があがっていく。これが、ニューラルネットワークのしょーたい。ね?簡単だったでしょ?」
灯花の指さすディスプレイには、網目状つながった点と線。
左端から輝きはじめ、波のように光が広がって最後に右端に消えていく。
何度も何度も繰り返される。
しかし、灯花はいつこれを作ったのだろう。
まさか、お姉さんにに説明する日が来ると思って用意してたのだろうか。
だとすれば周到と言うべきだ。
「ねえ、灯花ちゃん。こうやって、何度も何度も繰り返していけば、いつか100%になるのかな?」
「それがそうでもないんだにゃー。みふゆがね、もし同じさんこーしょばーっかり解いてたらどうなっちゃうかにゃー。」
「ええっと、別の問題集とかができなくなっちゃう……?」
「そのとーり!答えを覚えちゃったら意味がなーい!ずーっと同じデータばっかり使うと、ちょっと違う問題でも簡単に間違っちゃうんだにゃー。」
灯花がばしっばしっと机を叩いてる。
どうやらこれはこの場の例え話と言うよりは実体験。
「灯花、熱くなりすぎはよくないよ。」
「データはAIのさんこーしょ。参考書だって限りがあるでしょー。データも同じ。無限のデータはないんだにゃー。それに、答えが一つとは限らないこともあるしねー。」

「ありがとう灯花ちゃん。これでなんとか宿題ができそう。」
「くふふー。よかったにゃー。じゃあ、お姉さま。ごほうび、ちょうだい?」
「うーん、あんまり高い物は買えないけど……」
「大丈夫。お姉さまならすぐ用意できるものだよー。」
「えっ、それって何かなー?」
こくりとお姉さまが頭を傾けると、僕たちも僅かばかり傾く。
「たくさんなでなでして?」
隣に座る灯花、ちょっとした震え。
「ふふ、いいよ、灯花ちゃん。」
「たっくさんだよー、たくさん!わたくしのシナプス結合が大胆にきょーかされるくらいたくさんだよー。」
なんとずるい。
いや、羨ましいと言うべきか。
今日の功労者は間違いなく灯花。
そうであったとしても……
いや、ここは考え方次第。
お姉さんが灯花をなでなでしたということは、僕にもそのチャンスがあるということ。灯花が虎視眈々とチャンスを狙ってたように、僕もお姉さんの困りごとに対して先回りして準備してしまえばいい。そしてお姉さんに色々と教えられる機宜を誤ることなく掴み取るのが僕にとっての最善の道。

「あっ、お姉ちゃん……と灯花ちゃんねむちゃん?」
「|いろは、ねむ、灯花、ただいま。|」
「あっ、ふたりとも、お姉ちゃんを独り占めしてずるーい。」
そう言いながら、ういが僕たちの上にくっつくようにしがみつく。
「|みんなくっつく?|」
そして、桜子はソファの後ろから僕たち四人をぎゅっと抱きしめる。
後ろはお姉さん。前はうい。右は灯花。そして桜子の手。
若干無理のある姿勢だけれども、僕は大切な人たちに挟まれながら。
確かに僕の幸せがここにあった。


コメントはありません。 Comments/マギレコ/二次創作小説/里見灯花のAI講座

お名前: URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White