マギレコ/二次創作小説/怪談も悪くない

Last-modified: Mon, 05 Dec 2022 23:34:12 JST (517d)
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『怪談も悪くない』


怪談というものは、その場では興味と興奮が勝るものだが、いざ終わって一人になってみると恐怖だけがひっそりと居ついてしまう。

僕は、ひたひたと湧き上がる恐怖心から目をそらすように、一冊の本に見入ろうとしていた。しかし残念なことに、目は文字の上をすべるだけで、内容は頭に入ってこない。
「ただ一人で寝るだけのことが、こんなにも怖いなんて。灯花には言えないな。お姉さんは今頃どうしてるだろうか。ういは……」

怪談の後でも一人で寝られるのが大人の証……などという、まるで背伸びする子供のような言説を素直に受け取るほど幼いつもりはない。しかし、灯花と言い合っているうちに、あれよあれよと別々に寝ることとなってしまった。せっかくの4人での旅行、楽しい夜の時間。意地の張り合いで無かった事にするとは、慙愧に堪えなかった。

愚かしさの代償は、孤独であった。

「ねぇ、ねむちゃん?」
「っお姉さん!」
「しー。」
「なんで……」
「お姉ちゃん、眠れなくくて……」
「……」
「眠れるまで一緒に居て欲しいなって。」
ああ、下手な嘘。
僕にだってわかる。お姉さんは、僕を寝かしつけに来たんだ。
「ね、いいでしょ?」
「うん。」
僕はお姉さんの嘘に乗っかった。
僕のちっぽけなプライドと、孤独感を、いろはお姉さんがすっぽり包み込んでくれた。
「おやすみ。」
「むふ。おやすみ、お姉さん。」
そっと頭を撫でられながら、いつの間にか意識がふわふわと夢うつつ。
そして、そっと抱きしめるように持ち上げられ……
僕は安心のゆりかごの中で眠りについた。


『怪談なんて、そんな非科学的なもの、まだ怖がってるのかにゃー』
怪談が非科学的って言っても、怪談を怖がる心理的反応は科学的に説明できるんんだにゃー。きっとわたくしの脳髄ではオレキシンが出てるはずだよー。
あいにく、窓の外は曇り空。
星の一つでも見えれば、気がまぎれるのに。

そのとき、小さく、しかし物音。
どきりと心臓が跳ねる。
「灯花ちゃん?」
「お姉さま!」
暗がりから現れたのは、微笑んだお姉さま。
さっきまで恐怖のせいで早鐘をうっていた心臓は、いまや別の意味でどきどきと音を立てている。
「灯花ちゃんとお話したいなーって。」
「う……うぅ……お姉さま……」
もう限界。
ぎゅうっとお姉さまに抱き着くと、顔をうずめる。
「お姉さまお姉さまお姉さま……」
「わっ、えと……灯花ちゃん……?」
「絶対に離さないから。」
「うん……うん、ここにいるよ。」
そっと頭を撫でられると、それだけで気持ちよくなって……
『怖い』とか『眠れない』とか、そういったことがとろとろと溶けだして、暖かい何かが脳髄に満ちる。
「お姉さまは、本当に欲しいものをくれる……だいす……き……」
言えたか、言えなかったか。それもわからないままま眠りに落ちた。


「うう……お姉ちゃん……」
わたしって、子供っぽいのかなぁ。
一人で寝ることが、こんなにも心細いなんて。
大人になったら怖くなくなるのかな?
本当に?
怪談も、一人で寝ることも、平気だよと言えるわたしが想像できない。
ねむちゃんの考えてくれた影太郎の話を思い浮かべて、怖い気持ちをなんとかしようとしても、さっき聞いた怪談が割り込んできてうまく考えられない。
こんなに眠れなかったのは久しぶりだった。
ねむちゃんはどうしてるかな?
灯花ちゃんは?
ふたりともすごいから、ひとりでも眠れるのかな?
怖くて、怖い。
何かを思い出してしまうから。
怖かったあのときのこと、お姉ちゃんに助け出される前のこと。
思い出したらもっと怖くなるのに、とめどもなく思い出してしまう。
でも、そのとき、ふと、暖かい何かを感じた。
「ねえ、うい。」
「お姉ちゃん!」
そっと抱きしめられる。
怖さと、心細さで震えていたわたしは、気が付くと暖かく包まれていた。
「うい、ずっと一緒だよ。」
「うん、お姉ちゃん。」
あたたかくて、やわらかい。
思い出すのは、楽しい記憶。
宝崎の家で、病院で、みかづき荘で
お姉ちゃんとの思い出が
四人の思い出があふれだして
ふわふわとした気持ちになったまま眠くなって……
いつの間にか寝てしまっていた。


起こさないように、静かにそっと運ぶ。
三人を川の字に並べて、布団をかける。
魔法少女となって得た丈夫な体は、こんなことにも役立ってくれる。
「うい、灯花ちゃん、ねむちゃん。」
単に、みんな自立しようとしているだけかもしれない。
それを無視して勝手な行動をしてるのかもしれない。
これは私のエゴかもしれない。でも……
でも、寂しさを抱えたまま眠ろうとする眠れない三人を放ってはおけなかった。
「一緒に居て欲しいな。」
お姉ちゃんだから。
何よりもまず、三人のお姉ちゃんだから。
三人が仲良くしていることを見るのが、私の見たいもの。
三人と一緒に居ることが、私の願い。
それだけは自信を持って言える。


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